派遣先で労災に! どのように手続きを進めて誰に責任を問うべき?
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福島労働局が公表している「令和3年 労働災害発生状況(確定)」の資料によると、令和3年に福島労働局管内で発生した休業4日以上の労働災害件数は2465件で、前年同期よりも464件の増加となっています。
業務中や通勤中の出来事が原因で病気や怪我をしてしまった場合、労災保険から補償を受けられるケースがあることをご存じの方は多いでしょう。
労災保険からの補償は、正社員だけではなく派遣社員も対象です。しかし、派遣社員は派遣先と派遣元の双方に関係があるため、どちらに請求をすればよいのかわからないと迷われる方もいます。
本コラムでは、派遣先で労災になった場合の手続きと責任主体について、ベリーベスト法律事務所 郡山オフィスの弁護士が解説します。
1、派遣社員でも労災保険は利用可能|労災の基本
正社員と同様に、派遣社員でも労災保険を利用することが可能です。ここからは、労災における押さえておきたい基礎知識を説明します。
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(1)労災とは
労災(労働災害)とは、業務中や通勤中の出来事が原因となって生じた病気や怪我のことです。
このような労災が発生した場合、労働基準監督署による労災認定を受けることによって、労災保険から以下のような補償を受けることができます。- 療養(補償)給付
- 休業(補償)給付
- 障害(補償)給付
- 遺族(補償)給付
- 葬祭料、葬祭給付
- 傷病(補償)年金
- 介護(補償)給付
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(2)派遣社員にも労災保険が適用される
労災保険は、労働基準法上の労働者を対象としています。
そのため、アルバイトやパートといった就業形態にかかわらず、事業主と雇用関係があり、賃金を得ている場合には、正社員でなくても労災保険の適用対象です。
派遣社員は、派遣元との間で雇用契約を締結し、派遣先で働く労働者のことをいいます。つまり、派遣社員にも労災保険が適用されます。
派遣社員と雇用関係にあるのは、派遣先ではなく派遣元です。そのため、労災事故にあった場合には、派遣元が加入している労災保険を利用することになります。
2、派遣社員が行うべき手続きと手順
派遣社員が労災に巻き込まれてしまった場合には、どのような手続きが必要になるのでしょうか。以下では、派遣社員が労災保険を利用するために必要な手続きを説明します。
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(1)派遣元および派遣先への連絡
派遣労働者は、派遣元との間に労働契約関係がありますが、実際に働くのは派遣先です。そのため、派遣先で労災が発生したとしても、派遣元はその事実を把握できません。
まず、労災が発生した場合には、派遣元へ連絡をするようにしましょう。実際には、派遣先から派遣元に労災発生の報告がなされることが多いですが、念のため、派遣社員からも派遣元に連絡をしておいた方がよいといえます。
また、通勤中の事故に関しては、派遣先も事故の事実を把握できないため、派遣先への連絡も必要です。 -
(2)病院の受診
労災によって病気や怪我をした場合、治療のために病院を受診する必要があります。
労災による病気や怪我の場合には、健康保険を利用して受診をすることができませんので、病院の窓口で労災による治療である旨を伝えるようにしましょう。
受診した病院が労災指定医療機関であった場合には、窓口での費用負担がなく治療を受けることができるため、労災指定医療機関を受診するのがおすすめです。
労災指定医療機関以外の病院であった場合には、いったんは窓口で治療費を負担しなければなりません。ただし後日、必要な手続きを行うことによって、負担した費用の全額の支払いを受けることができます。 -
(3)派遣元および派遣先に労災申請書類の依頼
労災による怪我や病気で治療を受けた場合には、以下の書類を労災指定医療機関または労働基準監督署に提出して、労災認定を受けることが必要です。
- 「療養補償給付たる療養の給付請求書(様式5号)」(業務災害の場合)
- 「療養給付たる療養の給付請求書(様式16号の3)」(通勤災害の場合)
派遣社員の場合には、派遣先と派遣元の双方で上記の申請書類の記入をしてもらう必要があります。そのため、まずは、派遣先に上記書類を渡して労働災害の状況や原因についての証明をもらい、次に派遣元に事業主証明をもらうようにしましょう。
労災指定医療機関を受診した場合には、病院の窓口で派遣先および派遣元の証明済みの申請書を提出します。労災指定医療機関以外の病院を受診した場合には、労働基準監督署に申請書を提出することが必要です。
3、派遣先や派遣元に原因があれば損害賠償請求ができることも
労災認定を受けることによって、労災保険から補償を受けることができます。それに加えて、派遣先や派遣元に原因がある場合には、損害賠償請求ができる可能性もあります。
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(1)労災保険からの補償だけでは不十分
労災保険からの補償には、精神的苦痛に対する慰謝料の支払いは含まれておらず、障害が残ってしまった場合の逸失利益の補償も十分なものとはいえません。
労災保険の補償で不足する部分を補填するためには、派遣先や派遣元に対する損害賠償請求を検討する必要があります。 -
(2)損害賠償請求ができるケース
労働基準監督署による労災認定を受けたからといって、直ちに派遣先や派遣元に対して損害賠償請求ができるわけではありません。損害賠償請求をするには、派遣先や派遣元に労災発生についての法的責任があることが必要です。
- ① 派遣元への損害賠償請求
派遣元と派遣社員は、労働契約を締結していますので、労働契約上の権利義務を負うことになります。労働契約法では、使用者には労働者の生命・身体の安全を確保するための必要な配慮をする義務(安全配慮義務)が定められているため、派遣元による安全配慮義務違反があったといえる場合には、派遣元に対する損害賠償請求が可能です。 - ② 派遣先への損害賠償請求
派遣先と派遣社員との間には直接の契約関係がないため、派遣先は労働契約法に基づく安全配慮義務を負わないとも考えられます。
しかし、派遣社員は、派遣先の設備や器具を利用し、派遣先の指揮命令を受けて働いています。派遣社員と派遣先との間には、直接の契約関係はないといっても、派遣社員の労働状況を把握し、危険を管理しているのは派遣先であるといえますので、派遣先も派遣元と同様に派遣社員に対する安全配慮義務を負っているものと考えられています。
たとえば、派遣先および派遣元の安全配慮義務違反が問われた裁判例として、東京地裁平成17年3月31日判決があります。
この事案は、派遣先で働いていた派遣社員がうつ病を発症して自殺をしたというものですが、裁判所は、派遣先および派遣元には派遣社員に疲労や心理的負担が蓄積しすぎないように注意すべき義務があったとして、派遣先と派遣元の安全配慮義務違反を認めています。
- ① 派遣元への損害賠償請求
4、労災に関して弁護士に相談すべきケース
以下のようなケースでは、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)派遣元および派遣先への損害賠償請求を検討中の場合
労災によって病気や怪我を負ってしまった場合には、労災保険から補償を受けることができますが、それだけでは十分な補償とはいえません。
労災保険からの補償では不足する部分については、派遣元や派遣先に対する損害賠償請求で補填をすることになります。しかしそのためには、労働者として派遣元および派遣先の責任を主張立証していくことが必要です。
これは、主に安全配慮義務違反があったということを主張立証していくことになりますが、労働基準監督署による労災認定を受けたということだけでは、安全配慮義務違反の立証ができたとはいえません。
安全配慮義務違反があったと示すためには、労災事故発生状況や会社の管理不足などを細かく証明していく必要がありますが、そのためには専門家である弁護士のサポートが不可欠といえます。
まずは弁護士に相談をして、派遣元および派遣先に対する損害賠償請求が可能であるかどうかを判断してもらうとよいでしょう。 -
(2)派遣元および派遣先との交渉や訴訟手続きに不安がある場合
損害賠償請求を行う場合には、まずは、派遣元および派遣先との話し合いによる交渉を行います。
派遣社員個人による交渉では、言いたいことを伝えることができなかったり、まともに取り合ってくれなかったりすることもありますので、交渉に不安がある際には、弁護士に相談をするようにしましょう。
弁護士であれば、派遣社員に代わって会社と交渉をすることが可能です。法的観点から企業の責任を主張立証することにより、交渉で問題が解決する可能性が高まります。
また、話し合いで解決することができない場合には、訴訟提起をする必要がありますが、専門的知識が必要となる訴訟手続きになっても、弁護士がいれば安心です。
5、まとめ
労災保険は、正社員だけでなく派遣社員にも適用されます。そのため、労災によって派遣社員が病気や怪我を負った場合には、労災保険給付を受けることが可能です。
また、派遣社員の場合には、派遣元との雇用契約関係に基づいて、派遣先で働くという特殊な雇用形態をとるため、労災が発生した場合には、派遣元と派遣先に安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求を行うことが可能なケースもあります。
派遣先および派遣元への損害賠償請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 郡山オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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