従業員が勝手に休日出勤をする場合の対処法とは? 弁護士が解説
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福島労働局「令和3年度 個別労働紛争解決制度の施行状況を公表します」のデータ資料によると、令和3年度において、福島県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は1万6142件でした。
勝手に休日出勤をする従業員がいると、会社は休日手当を余分に支出しなければならず、さらに労災リスクが高まるなどのデメリットも生じます。従業員の勝手な休日出勤を阻止するためには、就業規則の整備などを通じて、職場における明確なルール作りを行うことが大切です。
本コラムでは、従業員が勝手に休日出勤することの問題点や、会社として行うべき対応、注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 郡山オフィスの弁護士が解説します。
1、従業員が勝手に休日出勤することは許されるのか?
従業員が会社の許可を得ずに休日出勤している場合、就業規則と労働時間の2つのことが法的に問題となります。会社としては、両方の観点から状況を分析した上で、適切に対応することが必要です。
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(1)ポイント①|就業規則違反に当たるか否か
許可なく行われる休日出勤が就業規則違反に当たる場合、就業規則違反に対する懲戒処分を定めていれば、会社は従業員に対して懲戒処分を行うことが可能です。
明示的に無断での休日出勤を禁止している場合のほか、会社が休日出勤をやめるように指示したにもかかわらず、その指示に従わずに休日出勤を続けている場合なども、就業規則違反に当たる可能性があります。 -
(2)ポイント②|労働時間に当たるか否か
会社の許可を得ていない休日出勤であっても、「労働時間」に該当する場合には賃金(残業代)を支払わなければなりません。
「労働時間」とは、客観的に見て、労働者が使用者(経営者や事業主など)の指揮命令下に置かれている時間のことです(最高裁平成12年3月9日判決)。
休日出勤が労働時間に当たるかどうかは、さまざまな要素を総合的に考慮して判断されます。<休日出勤が労働時間に該当するのか、考慮される要素の例>- 就業規則の定め(無断での残業や休日出勤を禁止しているか否か)
- 従業員に課された業務の量(労働日だけで終えることができる量か否か)
- 上司による業務指示の内容(休日出勤を事実上強制するような言動があったか否か)
- 他の従業員の勤務状況(無断で休日出勤をしている従業員が他にどのくらいいるか)
2、従業員の勝手な休日出勤で会社が被るデメリット
勝手に休日出勤をする従業員がいると、会社はいくつかのデメリットを被る可能性があります。
- ① 休日手当の支給額が増える
- ② 過労などが原因で労災リスクが高まる
- ③ ブラック企業のイメージがついてしまう
各デメリットについて、ここからは具体的に解説していきます。
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(1)休日手当の支給額が増える
労働時間に該当する休日出勤が行われた場合、会社は従業員に対して、以下の残業代を支払わなければなりません。
① 法定休日における休日出勤の場合(=休日労働)
通常の賃金の135%以上
② 法定休日以外の休日における休日出勤の場合- 法定労働時間を超える場合(=時間外労働):通常の賃金の125%以上
- 法定労働時間を超えない場合(=法定内残業):通常の賃金(割増なし)
※法定労働時間:休憩時間を除き、原則として1日当たり8時間、1週間当たり40時間(労働基準法第32条)
特に、休日労働または時間外労働に当たる場合は割増賃金が適用されるため、会社の人件費負担はいっそう重くなります。 -
(2)過労などが原因で労災リスクが高まる
本来休息をとるべき休日に出勤している従業員は、心身にダメージを負ってしまうリスクが高いといえます。
もし業務上の原因によって従業員が疾病にかかった場合は、労働災害(労災)として扱われます。労災が発生すると、従業員の長期休業によって業務に支障が出ることがあるでしょう。
そのような実害だけでなく、会社の安全配慮義務違反(労働契約法第5条)または使用者責任(民法第715条第1項)が認められ、従業員に対して損害賠償責任を負う可能性も否定できません。 -
(3)ブラック企業のイメージがついてしまう
休日出勤を続けている従業員がいると、他の従業員に対して「ブラック企業」というようなイメージを与えてしまう可能性があります。
特に一定以上の役職・年齢の従業員が休日出勤を続けている場合、若い従業員は会社における将来を悲観し、早期離職を決意してしまうことになりかねません。
優秀な若い人材が流出すれば、会社の成長力が大きく損なわれてしまいます。
3、従業員の勝手な休日出勤への対処法と注意点
従業員が無断で休日出勤していることを発見した場合、会社は対応を考える必要があります。ここからは、5つの対処法について説明します。
- ① 就業規則で休日出勤を許可制にする
- ② 休日出勤は原則禁止であることを周知する
- ③ 業務量の配分を見直す
- ④ 新規採用により人員を増やす
- ⑤ 従業員に対して懲戒処分を行う
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(1)就業規則等で休日出勤を許可制にする
就業規則を改定して、会社から許可を得ていない休日出勤は禁止であることを明記すれば、無断での休日出勤を抑止できるでしょう。もし無断での休日出勤を続ける従業員がいれば、懲戒処分を行うこともできるようになります。
就業規則を改定する場合には、労働基準法所定の手続きを踏まなければなりません。-
<就業規則改定の手順>
- ① 労働組合または労働者の過半数代表者の意見を聞く(同法第90条第1項)
- ② 就業規則を改定し、労働者に周知する(同法第106条第1項)
- ③ ①の意見書を添付した上で、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に変更の届け出を行う(同法第89条、第90条第2項)
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(2)休日出勤は原則禁止であることを周知する
就業規則等で休日出勤を原則禁止としていても、従業員はそのルールを認識していないか、またはそれほど重要なルールだと考えていない可能性があります。
このような状況では、会社に無断で休日出勤をする従業員が出てくるのも当然のことといえるでしょう。
会社としては、休日出勤が原則禁止であることを、強いメッセージによって再周知するべきです。たとえば全従業員向けに社長等の名義でメールを送信したり、オフィスに周知の掲示を行ったりする方法が考えられます。 -
(3)業務量の配分を見直す
会社に無断で休日出勤をしている従業員は、あまりにも多すぎる業務量に追い込まれているのかもしれません。もしそうであれば、業務量の配分を見直す必要があります。
会社としては、まず休日出勤をしている従業員に対して人事部面談などを行い、業務状況についてヒアリングを行いましょう。さらに、周囲の業務量なども調査した上で、比較的手が空いている従業員に業務を引き継ぐなどの対応を検討するべきです。 -
(4)新規採用により人員を増やす
会社が抱えている業務量に対して、雇用している従業員の数が少なすぎる可能性も考えられます。このケースでは、ほぼ全ての従業員が忙しく、業務量の調整が不可能な状態に陥っているといえるでしょう。
慢性的な人員不足に陥っている場合には、新卒採用や中途採用を通じて、早急に人員の増強を図るべきです。その分の人件費は増えますが、余剰人員を確保することは労働環境の改善につながり、中長期的な成長の観点からはプラスに働くと考えられます。 -
(5)従業員に対して懲戒処分を行う
就業規則のルールに違反して、勝手に休日出勤を続けている従業員に対しては、懲戒処分を行うことも考えられます。
ただし、従業員の行為の性質や態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は無効です(労働契約法第15条)。
たとえば、多すぎる業務量を処理するために無断で休日出勤をしていた場合には、重い懲戒処分は無効となる可能性が高いです。この場合は、戒告やけん責などの軽い懲戒処分にとどめるべきでしょう。
また、無断で休日出勤をするという行為の悪質性は、犯罪などの重大な違法行為に比べると低いものです。そのため、背景事情にかかわらず、懲戒解雇や諭旨解雇などは無効となる可能性が高い点にご留意ください。
いずれにしても、従業員に対して懲戒処分を行う際には、法的な観点から適法性を検討することが必要不可欠です。まずは弁護士に相談し、懲戒処分の可否および種類を慎重に検討することをおすすめいたします。
4、従業員とのトラブルは弁護士にご相談を
服務規律違反や残業代請求など、従業員との間でトラブルが発生したときは、弁護士にどう対応するべきかを相談しましょう。
弁護士は、法的な観点からトラブルへの適切な対処法をアドバイスすることが可能です。従業員との協議・労働審判・訴訟などの対応も、弁護士が全面的に代行いたします。
さらに、労使トラブルの予防策についても、会社のご事情に合わせてご提案することができます。労使トラブルへの対応や予防策については、弁護士にご相談ください。
5、まとめ
会社に無断で休日出勤をする従業員がいると、会社は休日手当の負担増や労災などのリスクを負います。就業規則の改定や従業員への周知などを行うとともに、業務量の調整や人員増強などの対応により、根本的な解決を図りましょう。
その上で、指示に従わない従業員に対しては、懲戒処分も検討すべきです。ただし、重すぎる懲戒処分は違法・無効となる可能性が高いので、事前に弁護士へのご相談をおすすめいたします。
ベリーベスト法律事務所は、人事労務に関する企業からのご相談を幅広く受け付けております。従業員とのトラブルにお悩みの企業は、ベリーベスト法律事務所 郡山オフィスにご相談ください。
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