副業禁止と就業規則に記載する場合の注意点は? 記載例や従業員の処罰
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2022度に福島県内の総合労働相談コーナーに寄せられた相談は1万6650件でした。近年副業をする人の増加に伴い、企業とのトラブルも増加傾向にあると推測されます。
副業に関しては、労働者を業務に専念させるため、就業規則によって禁止する会社があります。ただし、副業を全面的に禁止する就業規則の規定については、法的な有効性に疑念があるところです。就業規則で副業を禁止する場合は、禁止の範囲を合理的に限定しましょう。
本記事では、就業規則によって副業を禁止することの可否や、副業禁止に関する注意点などをベリーベスト法律事務所 郡山オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」(福島労働局)
1、就業規則によって副業を禁止することはできるのか?
業務時間外とはいえ、副業によって労働者の心身に大きな負担がかかると、会社の業務に支障が生じてしまうおそれがあります。そのため、就業規則で副業を禁止する会社が少なくありません。
しかし、就業規則による副業の禁止は、無制限に認められるわけではない点に注意が必要です。
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(1)副業を全面的に禁止することは難しい
副業を全面的に禁止する就業規則の規定は、無効と判断されるリスクが高いです。副業は本来、労働者が自由に行い得るプライベートな行為であって、使用者の指揮命令権が及ぶ範囲内にありません。
そのため、副業を全面的に禁止する就業規則の規定は、公序良俗違反(民法第90条)によって無効となるおそれがあります。 -
(2)会社の業務に支障が生じる副業については禁止できる
ただし、労働者があまりにも熱心に副業へ取り組むと、会社の業務に支障が生じる可能性が否めません。
労働者は、少なくとも就業時間の間は、会社の業務に専念する義務を負います。過度な副業は、労働者としての専念義務を果たせない状況を生むこともあり得ます。
そのため、会社の業務に支障が生じるような副業については、就業規則で禁止または制限することも認められると考えられます。
2、副業の禁止を定める就業規則の記載例
前述のとおり、副業を全面的に禁止する規定は無効と判断されるリスクが高いため、就業規則において定めることは避けるべきでしょう。
基本的には副業を届出制として原則認めることとし、会社の業務に支障が生じ得る場合に限って禁止または制限する形が適切と考えられます。
厚生労働省が公表しているモデル就業規則では、副業・兼業について以下の内容を定めています。モデル就業規則の条項を参考にしつつ、会社の状況に合わせた副業・兼業条項を就業規則に定めましょう。
2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。
- ① 労務提供上の支障がある場合
- ② 企業秘密が漏えいする場合
- ③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
- ④ 競業により、企業の利益を害する場合
参考:「モデル就業規則(令和5年7月版)」(厚生労働省)
3、就業規則で副業を禁止する際の注意点
就業規則で副業を禁止する際には、労働者とのトラブルを避けるため、以下の各点に注意しましょう。
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(1)禁止される副業の内容を明確化する|合理的に範囲を限定すべき
就業規則によって禁止する副業の範囲は、できる限り明確化することが大切です。また、前掲のモデル就業規則を参考にして、副業禁止の範囲を合理的に限定しましょう。
副業禁止の内容が不明確な場合や、あまりにも広範囲に及ぶ場合には、公序良俗に反して無効と判断されるリスクが高まるので注意が必要です。 -
(2)従業員に対して就業規則の内容を周知する
使用者は労働者に対し、以下のいずれかの方法によって就業規則の内容を周知させる義務を負います(労働基準法第106条第1項、労働基準法施行規則第52条の2)。
- (a)常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付ける
- (b)書面を労働者に交付する
- (c)PC等の電子計算機に備えられたファイルまたは電磁的記録媒体をもって調製するファイルに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する
副業禁止の内容についても、上記のうちいずれかの方法により、労働者への周知を徹底しましょう。
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(3)定期的に副業禁止の内容を見直す
就業規則による副業禁止の内容は、会社の実態に沿ったものとすべきです。
実際に許可した副業が会社の業務に支障を生じさせていないか、また反対に、過度に副業を制限していないかなどを定期的に検証し、副業禁止規定の見直しを行いましょう。
4、就業規則に違反して副業をした従業員に対する懲戒処分の可否
就業規則に違反して副業をした従業員に対しては、懲戒処分を行うことが考えられます。ただし、副業禁止規定の有効性や懲戒権の濫用について、懲戒処分を行う前に慎重な検討を行うべきです。
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(1)副業禁止違反による懲戒処分の有効性に関する裁判例
副業禁止違反を理由とする懲戒処分が有効と認められた裁判例と、無効とされた裁判例を1つずつ紹介します。
- ① 東京地裁昭和57年11月19日判決
建設会社の労働者が、就業規則に反して毎日6時間にわたりキャバレーで無断就労した事案です。会社は労働者を解雇したところ、労働者が解雇の無効を主張して提訴しました。
東京地裁は、就業時間外の活動は本来労働者の自由であるとして、就業規則で兼業(副業)を全面的に禁止することは、特別な場合を除き合理性を欠くとしました。
その一方で、兼業の内容によっては企業の経営秩序を害し、または企業の対外的信用や体面を傷つけられることもあるとして、兼業を承諾制(許可制)とする就業規則の規定が不当であるとは言い難いと判示しました。
本件について東京地裁は、毎日6時間に及ぶキャバレーでの無断就労につき、余暇利用のアルバイトの域を超え、労務の誠実な提供に支障を来す可能性が高い旨を指摘して、解雇を有効としました。 - ② 東京地裁平成20年12月5日判決
私立大学の教授が、大学側の許可を得ずに語学学校講師などを兼職し、大学の講義を休講とした事案です。大学側が教授を解雇したところ、教授が解雇の無効を主張して提訴しました。
東京地裁は、兼職が使用者の権限の及ばない私生活上の行為である旨を指摘しました。その上で、形式的には兼職の許可制に違反する場合でも、職場秩序に影響せず、かつ労務提供に格別の支障を生じさせない程度・態様による場合は、実質的な違反に当たらないとしました。
本件について東京地裁は、兼職が夜間や休日に行われており、本職である教授としての業務への支障が認められなかったことを理由に、懲戒解雇を無効としました。
両裁判例の結論は異なりますが、いずれも副業が労働者の自由に行い得る私生活上の行為であることを前提に、副業を禁止する就業規則の規定を狭く限定解釈する点で共通しています。
副業禁止違反を理由に懲戒処分を行う際には、上記の裁判例の傾向を踏まえた上で、実質的な観点から労働者の副業が就業規則違反に当たるか否かを検討しなければなりません。 - ① 東京地裁昭和57年11月19日判決
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(2)懲戒権の濫用に当たらないように要注意
労働者の副業が就業規則違反に当たるとしても、実際に行う懲戒処分の種類を決める際には、懲戒権の濫用に当たらないように注意しなければなりません。
労働者の行為の性質・態様等に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は、懲戒権の濫用として無効です(労働契約法第15条)。
副業禁止違反を理由とする懲戒処分については、その有効性を判断するに当たり、以下のような要素が考慮されると思われます。- 会社の業務に与える支障の程度
- 会社に及ぼした損害の内容(例:営業秘密などの情報漏えい)
- 従前の改善指導の経緯
- 普段の勤務態度
- 就業規則違反の常習性
たとえば、会社の業務に与える支障が小さいのに、いきなり懲戒解雇を行うことはできません。まずは“戒告”や“けん責”などの軽い懲戒処分にとどめ、段階的に重い懲戒処分を行うのが適切でしょう。
また、懲戒処分に先立って、労働者に対して十分な注意および改善指導を行うことも大切です。会社の取り組みにもかかわらず、労働者の行為に改善が見られない場合には、懲戒処分が有効と判断される可能性が高まります。
5、まとめ
就業規則の副業禁止規定は、会社の業務に支障が生じるような副業に限定して適用される可能性が高いです。全面的に副業を禁止する旨を定めている場合は、その一部が無効となってしまうおそれがあるのでご注意ください。
就業規則の内容を法的な観点から検証したい場合や、副業禁止について従業員とのトラブルが生じそうな場合には、弁護士へのご相談をおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 郡山オフィスでは、労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。従業員の副業に関するトラブルのご相談は、お気軽に当事務所へご連絡ください。
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