営業マンのサボりはクビにする理由になる? 正当な解雇理由とは
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2022年度に福島県内の総合労働相談コーナーに寄せられた相談は1万6650件でした。中には怠慢を理由とした解雇トラブルもあるかもしれません。
仕事をサボっている営業マン(営業社員)は、会社にとってお荷物であり、悩みの種です。しかし、たとえ営業マンが仕事をサボっているとしても、安易にクビにすると不当解雇の責任を問われるおそれがあります。
本記事では、仕事をサボっている営業マンをクビにできるか、正しい対処法などを、ベリーベスト法律事務所 郡山オフィスの弁護士が解説します。
出典:「「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します」(福島労働局)
1、サボりを理由に営業マンをクビにすることは可能?
仕事をサボっていることが明らかだとしても、営業マンをクビにするためには厳しい要件をクリアしなければなりません。安易にクビにすることは避け、解雇の要件を満たしているかどうかを慎重に検討しましょう。
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(1)サボっている営業マンをクビにする(解雇する)ための要件
サボっている営業マンをクビにする(解雇する)ためには、懲戒解雇の要件を満たす必要があります。
懲戒解雇の要件 - ① 就業規則上の懲戒事由に該当すること
- ② 就業規則において、懲戒解雇を行うことがある旨が定められていること
- ③ 労働者の行為の性質・態様その他の事情に照らして、懲戒解雇を行う客観的・合理的理由があり、かつ懲戒解雇が社会通念上相当であると認められること
勤務時間中のサボり行為は、職務専念義務違反として就業規則上の懲戒事由に当たるのが一般的です。
しかしながら、懲戒事由に該当するとしても、懲戒解雇を行うことができるとは限りません。上記③の要件を満たしているかどうかが、懲戒解雇が認められるかどうかの分かれ目です。
上記③の要件は「解雇権濫用の法理」と呼ばれています。客観的・合理的理由がなく、社会通念上相当であると認められない懲戒解雇は無効です(労働契約法第15条、第16条)。
解雇権濫用の法理は厳格に運用されており、懲戒解雇が無効と判断されるケースは非常に多い点にご注意ください。 -
(2)サボっている営業マンをクビにしてもよいケース
サボっている営業マンをクビ(懲戒解雇)にしてもよいのは、サボりを含む労働者の行為が非常に悪質である場合や、改善の余地がない場合などに限られます。
一例として、以下のようなケースではサボっている営業マンをクビにしてもよいと考えられます。- 再三にわたって改善指導を行ったのに、一向に改善が見られず仕事をサボり続けた。
- 仕事をサボっている時間に、複数回にわたって違法賭博に手を出していたことが発覚し、その事実が大々的に報道されて会社の評判が低下した。
2、営業マンのクビが「不当解雇」と判断されたらどうなる?
営業マンをクビにすると、営業マンが反発して「不当解雇」(=法律上の要件を満たさず違法・無効である解雇)を主張してくることがあります。
営業マンのクビが不当解雇と判断された場合、会社は以下のリスクを負うので要注意です。
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(1)営業マンの復職を認めざるを得なくなる
解雇が無効である場合、会社は原則として、営業マンの復職を認めざるを得ません。
そのような場合、復職した営業マンが営業成績を十分に上げなければ、会社にとってはコストが利益を上回り、損失が拡大してしまいます。
また、クビにした営業マンの代替人員をすでに採用している場合は、人員の余剰が生じてしまうおそれがあります。
さらに、クビにした営業マンが戻って来ることによって職場の秩序が乱れ、他の従業員が大きな負担を感じるようになるかもしれません。
会社が営業マンの復職に伴うリスクを避けたい場合には、後述する解決金の支払いなどを提案し、退職を受け入れてもらう方向で営業マンと交渉しましょう。 -
(2)未払い賃金(バックペイ)を請求される
不当解雇によって営業マンが職場を離れていた期間について、会社は賃金全額を支払わなければなりません(民法第536条第2項)。これは「バックペイ」と呼ばれるものです。
バックペイは、営業マンが働いていないのに支払う必要がある「カラ賃金」であり、会社にとっては純粋な損失となってしまいます。 -
(3)多額の解決金の支払いを求められる
どうしても営業マンを復職させたくないときは、営業マンに退職を受け入れるよう求めて交渉するしかありません。
しかし、本来であれば復職できる営業マンに退職を受け入れてもらうには、何らかのメリットを提示する必要があります。
よく見られるのは、会社が営業マンに対して解決金の支払いを提案するパターンです。賃金の3か月分から1年分程度の解決金を提示し、解決金の支払いと引き換えに会社を退職してもらうよう提案します。
交渉がまとまれば、不当解雇のトラブルを穏便に解決できます。しかし会社にとっては、多額の解決金の支払いを強いられることは大きなマイナスといえるでしょう。
3、【クビにする前に】サボる営業マンへの正しい対処法
営業マンがサボっていることが分かったでも、直ちにクビにするのはリスクが高いです。以下のような対応を段階的に行うことをおすすめします。
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(1)上司などが改善指導を行う
まずは、サボっている営業マンに対して、上司などが改善指導を行いましょう。営業マンが自身の行動の問題点を認識し、自主的に改善へ取り組む可能性があります。
将来的に懲戒解雇などの懲戒処分を想定する場合も、事前に十分な改善指導をしておけば、懲戒処分の客観的・合理的理由および社会的相当性を補強することができます。
改善指導に当たってはさまざまな方法が考えられます。一例として、上司との1on1ミーティングを実施しつつ、定期的に報告を受ける方法などがよく用いられています。 -
(2)配置転換をする
営業マンが仕事をサボるのは、そもそも営業職がフィットしていないからかもしれません。
飛び込み営業をするのを面倒に感じている、十分に営業先を確保できず手持ち無沙汰にしている、どう営業すればよいか分からず困っている……などの原因が考えられます。
営業職に向いていないと思われる営業マンについては、配置転換が有力な選択肢となります。
たとえば、営業マンからバックオフィスに配置転換したところ、より特性をいかした働き方ができるようになって、企業への貢献度が上がったという例も見られます。
営業マン自身の意見も聞きつつ、どの職種であれば最大限の働きをしてもらえるかを検討した上で、配置転換を打診してみましょう。 -
(3)段階的に懲戒処分を行う
サボっている営業マンに対していきなり懲戒解雇を行うと、不当解雇と判断されるリスクが高いと考えられます。
これに対して、まずは軽い懲戒処分から行い、改善指導が奏功しなければ段階的に重い処分を行えば、懲戒処分が違法と判断されるリスクを抑えられます。
サボっている営業マンに対しては、まず戒告や減給などの軽い懲戒処分から検討するとよいでしょう。
4、営業マンのサボり行為への対応を弁護士に相談するメリット
営業マンのサボりに困っている会社は、弁護士に相談することをおすすめします。
サボっている営業マンのパフォーマンスを改善するためには、改善指導や配置転換などの方法が考えられます。人事・労務管理について解決実績のある弁護士に相談することで、さまざまな角度からの改善のアイデアを得られるでしょう。
また、サボっている営業マンに対して懲戒処分を行う際には、懲戒処分の要件を満たしているか否かについて、慎重な法的検討が必要です。
弁護士に相談すれば、懲戒処分を行うに当たって必要な準備や気を付けるべきポイント、どの程度の懲戒処分が妥当であるかどうかなどについてもアドバイスを受けられます。
事前に弁護士へ相談してから対応することにより、営業マンとのトラブルのリスクを抑えられる可能性が高まります。サボっている営業マンへの対応については、弁護士にご相談ください。
お問い合わせください。
5、まとめ
営業マンのサボりが判明した場合は、直ちにクビにするのではなく、状況を調査した上で改善指導や配置転換などを行いましょう。
懲戒処分を行う際には、軽い懲戒処分から段階的に行うのが賢明です。やむを得ず懲戒解雇を検討する場合は、不当解雇と判断されるリスクを避けるため、事前に弁護士へ相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、人事・労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けております。解雇に関するトラブルの予防や対応についても、経験豊富な弁護士が丁寧にアドバイスいたします。ニーズに応じてリーズナブルにご利用いただける顧問弁護士サービスもご用意しております。
仕事をサボる営業マンへの対応にお悩みの企業は、ベリーベスト法律事務所 郡山オフィスにご相談ください。
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