過重労働と長時間労働の違い、会社に対して出来ることを弁護士が解説
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福島労働局の報道資料「長時間労働が疑われる事業場に対する令和3年度の監督指導結果を公表します」によると、令和3年度に福島県内の労働基準監督署が監督指導を行った1010事業場のうち、違法な時間外労働があったのは298事業場でした。
過重労働や長時間労働は、劣悪な条件で労働者(従業員)を働かせるブラック企業の代名詞です。両者の意味には違いがありますが、いずれも労働者の心身に大きな負担をかけるものである点は共通しています。
本コラムでは、過重労働と長時間労働について、両者の意味の違い・労働者の心身にもたらす悪影響・労働時間のルール・会社に強制された場合の対処法などをベリーベスト法律事務所 郡山オフィスの弁護士が解説します。
1、過重労働と長時間労働の違いは?
過重労働とは、労働者の心身に大きな負担がかかるような形で働くことを意味します。
- 連日長時間にわたって残業をする
- 休日出勤が重なり、長期間にわたって連勤が続いている
- 能力や経験に比べて重すぎる責任を負わされている
- 上司から毎日厳しすぎる叱責を受けている
- 悪質なクレームへの対応により、精神的に大きく疲弊している
これに対して長時間労働は、文字通り長い時間働くことを意味し、過重労働の一類型として位置づけられます。どこからが長時間労働なのかについて、明確な基準はありません。
しかし、脳・心臓疾患に関する労災認定基準では、発症前2~6か月間にわたって、1か月あたりおおむね45時間超の時間外労働が認められれば、業務と疾患発症の関連性が徐々に強まるものとされています。
参考:「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(厚生労働省)
したがって、おおむね1か月あたり45時間を超える時間外労働をしている場合には、長時間労働の範疇というべきでしょう。1か月あたりの法定労働時間は160~180時間程度であるため、総労働時間が220時間程度以上のときは、長時間労働と評価できます。
さらに、疾患が発症する前の1か月間に100時間、または2~6か月間にわたって1か月平均80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と疾患発症との関連性が強いと評価すべきものとされています。
時間外労働が「1か月で100時間」「2~6か月の平均が月80時間」である状況は「過労死ライン」と呼ばれることがあり、許容すべきでない長時間労働のボーダーラインとして認識されていることにご留意ください。
2、過重労働や長時間労働がもたらす心身への悪影響
長時間労働を含む過重労働は、脳・心臓疾患や精神疾患を発症するリスクを高めることで知られています。
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(1)脳・心臓疾患のリスクが高まる
脳・心臓疾患に関する労災認定基準では、業務での明らかな過重負荷が加わることにより、血管病変等が自然経過を超えて著しく増悪し、脳・心臓疾患を発症する場合があるということが指摘されています。
参考:「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(厚生労働省) -
(2)精神疾患のリスクが高まる
精神疾患に関する労災認定基準によれば、精神疾患の発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められ、かつ業務以外の心理的負荷・個体側要因によらず発病した精神疾患は、業務上の疾病として取り扱われます。
参考:「心理的負荷による精神障害の認定基準」(厚生労働省)
3、労働基準法上の労働時間に関するルール
労働基準法では、過度な長時間労働を抑制するため、労働時間に関する規制が設けられています。
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(1)原則として法定労働時間が上限
使用者(経営者や事業主など)が労働者を働かせるとき、原則として法定労働時間が上限とされています。法定労働時間は、一部の例外を除いて「1日8時間、1週間40時間」です(労働基準法第32条)。
なお、管理職の労働者であっても、経営者と一体的な立場にある管理監督者(同法第41条第2号)に該当しない限り、法定労働時間の規制が適用されます。 -
(2)時間外労働をさせるには「36協定」の締結が必要
使用者が法定労働時間を超えて労働者を働かせるためには、労働組合または労働者の過半数代表者との間で、36協定を締結しなければなりません(労働基準法第36条第1項)。
36協定では、時間外労働・休日労働に関する労使の合意内容として、以下の事項を定める必要があります(同条第2項、労働基準法施行規則第17条第1項)。- ① 時間外労働や休日労働させることができる労働者の範囲
- ② 36協定の対象期間(1年間に限る)とその起算日
- ③ 時間外労働・休日労働させることができる場合
- ④ 1日・1か月・1年の各期間について、時間外労働をさせることができる時間数および休日労働をさせることができる日数
- ⑤ 36協定の有効期間
- ⑥ 1か月について、時間外労働・休日労働の合計時間を100時間未満とする旨
- ⑦ 2か月~6か月間について、時間外労働・休日労働の合計時間を月平均80時間以内とする旨
<特別条項※を定める場合>
※特別条項:1か月あたり45時間(=限度時間)を超えて時間外労働をさせることができる旨を定める条項- ⑧ 限度時間を超えて労働させることができる場合
- ⑨ 限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康・福祉を確保するための措置
- ⑩ 限度時間を超えた労働に係る割増賃金率
- ⑪ 限度時間を超えて労働させる場合の手続き
36協定は、労働基準監督署に届け出なければ効力を生じません。したがって、使用者は効力発生日の前述までに、労働基準監督署への届け出を行うことが必要です。
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(3)36協定を締結しても、長時間労働には上限あり
36協定が締結されたとしても、会社は労働者を無制限に働かせることができるわけではありません。
36協定に基づく時間外労働は、原則として1か月あたり45時間が上限です(労働基準法第36条第3項、第4項)。
特別条項が定められている場合には、臨時的な必要性があるケースに限り、1か月あたり45時間を超えて時間外労働をさせることができます。ただし、特別条項を定める場合も、以下の規制を遵守しなければなりません(同条第5項、第6項)。- ① 1か月の時間外労働・休日労働の合計時間は100時間未満
- ② 1年の時間外労働は720時間以内
- ③ 限度時間の超過が認められるのは、1年あたり6回(6か月)まで
- ④ 2か月~6か月間について、時間外労働・休日労働の合計時間は月平均80時間以内
- ⑤ 坑内労働など、健康上特に有害な業務に従事する労働者については、1日の時間外労働は2時間以内
4、会社から過重労働や長時間労働を強いられた場合の対処法
会社に長時間労働を含む過重労働を強いられた労働者としては、下記3つの対応をとることが考えられます。
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(1)労働基準監督署に相談する
長時間労働が慢性化している場合、労働時間について労働基準法違反の状態が生じている可能性があります。
労働基準法違反については、労働基準監督署への申告が可能です(同法第104条第1項)。
申告をきっかけとして労働基準監督署の臨検(立ち入り調査)が行われ、会社に対する行政指導や刑事処分がなされれば、違法な長時間労働の是正が期待できます。
参考:「全国労働基準監督署の所在案内」(厚生労働省) -
(2)転職や退職代行の利用を検討する
労働者に対して過重労働を強いる会社に居続けると、心身に不調をきたす恐れがあります。一度疾患を発症してしまうと、そこから立ち直るために膨大な時間が必要です。心身の健康は何ものにも代えがたい、ということを忘れてはいけません。
過重労働によって心身ともに疲弊している場合には、退職して職場を離れ、転職活動を行うことをおすすめいたします。退職後の収入については、雇用保険の受給が可能です。
会社に退職を伝えることに心理的なハードルがある方は、弁護士による退職代行サービスの利用をご検討ください。 -
(3)未払い残業代を請求する
労働者に違法な長時間労働を強いる会社は、残業代についても適切に支払っていないケースが多いです。そのため、未払い残業代の有無や金額について、弁護士に確認することをおすすめいたします。
実際に未払い残業代を請求する際にも、弁護士が交渉・労働審判・訴訟などの対応をすることが可能です。未払い残業代が生じている可能性のある方は、お早めに弁護士までご相談ください。
お問い合わせください。
5、会社とのトラブルは弁護士にご相談を
長時間労働を含む過重労働に陥っている状態から、労働者の方が自力で脱却するのに難しいケースもあるでしょう。また、時間にも気力にも余裕がない状態では、会社の言いなりに働き続けた結果、心身の健康を害してしまうリスクが高いといえます。
勤務先から慢性的に過重労働を強いられている方は、お早めに弁護士までご相談ください。労働条件に関する会社との協議・退職代行・未払い残業代の請求などを通じて、心身ともに疲弊した労働者の方を親身にサポートいたします。
6、まとめ
長時間労働対策や業務状況の管理を怠るブラック企業では、労働者が過重労働の状態に陥ってしまいがちです。ご自身で過重労働の状態を脱却することが難しいと感じたときは、弁護士への相談をご検討ください。
ベリーベスト法律事務所は、会社とのトラブルに関する労働者からのご相談を随時受け付けております。勤務先の会社に長時間労働を含む過重労働を強いられている方は、ベリーベスト法律事務所 郡山オフィスにご相談ください。
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