残業代の単価とは? 計算方法や未払い残業代を請求する流れを解説
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給与明細をみて「思ったよりも残業代が少ない……」と感じたことがありませんか?残業代計算を会社に任せきりにしていると、本来もらえるはずの残業代が支払われていないという事態にもなりかねません。
この問題を防ぐためには、自分でも残業代を計算できるようになることが大切です。残業代の計算方法は少し複雑ですが、基本を押さえれば自分でもおおまかに計算することができます。まずは、残業代計算の基本を理解しておきましょう。
今回は、残業代の単価、残業時間、割増賃金率といった残業代計算の基本事項や残業代請求の流れなどをベリーベスト法律事務所 郡山オフィスの弁護士が解説します。


1、残業代の単価とは?
残業代の単価とは、従業員が法定労働時間を超えて働いた場合に支払われる賃金の計算基準となる金額です。
正しい残業代を計算するためには、まずは残業代の単価を知る必要があります。以下では、残業代の単価の計算方法と具体例を紹介します。
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(1)残業代の単価の計算方法
時給制で働く労働者の方であれば、時給額がそのまま残業代の単価になります。一方、月給制で働く労働者の方については、以下のような計算式により1時間あたりの残業代の単価(基礎賃金)を求める必要があります。
1時間あたりの残業代の単価(基礎賃金)=月給÷1か月の平均所定労働時間
なお、「1か月平均所定労働時間」は、以下のような計算式で算出できます。
1か月の平均所定労働時間=(365日-年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月
ただし、残業代の単価を計算する「月給」からは、以下の手当を除外しなければなりません。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当(単身赴任手当)
- 子女教育手当
- 住居手当
- 臨時に支払われた手当(出張手当など)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(ボーナスなど)
除外される手当については、名称だけでなくその実質によって判断されることがあります。たとえば、家族手当の名目であっても、扶養家族の人数に関係なく一律に支給される場合は、除外せず基礎賃金に含まれる可能性があります。
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(2)残業代の単価計算の具体例
以下のモデルケースを踏まえて、実際に残業代の単価計算をしてみましょう。
- 勤務時間:午前9時〜午後6時(休憩1時間)
- 年間休日:125日
- 月給:30万円(通勤手当:1万円/家族手当:1万円)
- 月の残業時間:40時間
- 法定休日:日曜日
まず、「月給」を計算することになりますが、家族手当と通勤手当は除外されますので、以下のようになります。
月給=30万円-(1万円+1万円)=28万円
次に、「1か月の平均所定労働時間」を計算すると以下のようになります。
1か月の平均所定労働時間=(365日-125日)×8時間÷12か月=160時間
以上を踏まえて、1時間あたりの残業代の単価を計算すると以下のようになります。
28万円÷160時間=1750円
2、残業代の計算方法
残業代は、「1時間あたりの残業代の単価×残業時間×割増率」により計算することができます。残業代の単価については1章で説明しましたので、ここでは「残業時間」と「割増率」の考え方について説明します。
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(1)残業時間
残業時間には、「法定外残業」と「法定内残業」の2種類があります。
- ① 法定外残業とは
法定外残業とは、法定労働時間を超えた残業のことをいいます。労働基準法では、1日8時間・1週40時間という法定労働時間を定めていますので、それを超えた残業が法定外残業になります。法定外残業については、割増賃金の支払いが必要になりますので、後述する割増率により増額した割増賃金を請求することができます。 - ② 法定内残業とは
法定内残業とは、所定労働時間を超えているものの法定労働時間の範囲内の残業をいいます。たとえば、所定労働時間が午前9時から午後4時(労働時間6時間、休憩1時間)と定められている会社で、7時間働いた場合、所定労働時間を超える1時間分が法定内残業になります。ただし、法定内残業に対して割増率が適用されませんので、会社に対して割増賃金を請求することはできません。
このように法定外残業と法定内残業とで残業代計算の扱いが異なりますので、両者を区別して計算することが大切です。
- ① 法定外残業とは
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(2)割増率
時間外労働(法定外残業)、深夜労働、休日労働に対しては、以下の割増率により増額した割増賃金を請求することができます。
時間外労働の種類 割増率 時間外労働 +25%以上 深夜労働
(午後10時から翌午前5時まで)+25%以上 休日労働 +35%以上 月60時間を超える時間外労働 +50%以上
割増率は、重複して適用されるものもあり、時間外労働と深夜残業が重なる場合には50%(25%+25%)以上の割増率が、深夜労働と休日労働が重なる場合には60%(25%+35%)以上の割増率が適用されます。
細かな計算が難しいという方は、ベリーベスト法律事務所では手軽に残業代の確認ができるツールをご用意しておりますので、こちらもご利用ください。
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3、未払い残業代を請求する流れ
会社に対して未払い残業代を請求する場合、以下のような流れで請求していきます。
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(1)タイムカードや勤怠記録、日報などの証拠を集める
残業代請求をする前提として、まずは未払い残業代に関する証拠を集める必要があります。
残業代が未払いになっていることは労働者の側で立証しなければなりませんので、証拠がなければ残業代請求は認められません。また、残業代を計算する際にも証拠が必要になりますので、未払い残業代請求にあたって証拠は非常に重要です。
未払い残業代に関する証拠としては、主に以下のようなものが挙げられます。- タイムカード
- 勤怠記録
- 業務日報
- PCのログ記録
- オフィスの入退館記録
- 交通系ICカードの履歴
- PC画面のスクリーンショット
- 業務用メールの送受信記録
- 残業時間を記録したメモ
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(2)未払い残業代を計算する
未払い残業代に関する証拠を確保したら、次は未払い残業代の計算を行います。
残業代計算の方法はすでに説明したとおりですので、そちらを参考にご自身の残業代を計算してみましょう。 -
(3)内容証明郵便を送付する
証拠の確保と未払い残業代の計算ができたら、会社に対して未払い残業代請求を行います。
残業代請求の方法には、特別な決まりがあるわけではありませんが、内容証明郵便を利用して行うのが一般的です。
なぜなら、内容証明郵便を利用することで残業代請求をしたという客観的な証拠を残すことができるからです。特に、残業代請求には3年という消滅時効があり、催告(雇用主に対する正式な通知)をすることで、6か月間時効の成立を止めることができます。これを立証する際に、内容証明郵便が役に立ちます。 -
(4)会社と交渉する
会社に内容証明郵便が届けられたら、会社との交渉を開始します。
残業代を計算した根拠資料がある場合には、それも会社に開示することでスムーズに交渉を進めることができます。会社が未払い残業代の支払いに応じる意向を示したときは、詳細な条件を取り決めて、その内容を書面にまとめるようにしてください。
口頭での合意だけでは、後で約束を破られるリスクもあるため、必ず書面により合意することが大切です。 -
(5)労働審判または訴訟を検討する
会社との交渉が決裂してしまったときは、労働審判または訴訟を検討します。
労働審判は、解雇や残業代未払いなどの労働問題を実情に即して迅速かつ実効的に解決できる裁判所の手続きです。原則3回までの期日で終了しますので、裁判よりも早期解決が期待できます。
そのため、会社との話し合いで解決する余地が残されているのであれば、訴訟する前に労働審判を利用してみてもよいでしょう。
4、未払い残業代の請求を検討しているなら弁護士に相談を
未払い残業代の請求を検討中の方は、以下のような理由から弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)未払い残業代を正確に計算してもらえる
今回、残業代計算の基本を説明しましたが、実際の残業代計算は、固定残業代制度、フレックスタイム制、裁量労働制などの労働条件も考慮しなければならず、かなり複雑な計算になってきます。
正確な未払い残業代計算は知識や経験が必要になります。不安な場合は弁護士に任せた方がよいでしょう。弁護士であれば迅速かつ正確に未払い残業代の計算を行うことができますので、残業代計算にかかる負担を大幅に軽減することができます。 -
(2)会社との交渉をお願いできる
未払い残業代請求をする際には、まずは会社との交渉を行うことになります。
しかし、労働者個人で会社と交渉をしても会社側は真摯(しんし)に取り合ってくれないケースも多く、個人で交渉するのは困難だといえるでしょう。
弁護士に依頼すれば会社との交渉をすべて任せることができます。交渉のプロである弁護士が交渉の窓口になれば、会社も適当な対応はできなくなりますので、適切に対応をしてもらうことにより早期解決が期待できます。 -
(3)審判や訴訟などの法的な手続きを任せられる
会社との交渉が決裂したときは、審判や訴訟などの法的手続きが必要になりますが、弁護士に依頼すればそのような法的手続きの対応も任せることができます。
審判や訴訟手続きは、労働者個人で対応するのは困難ですので、専門家である弁護士に任せるのが安心です。
ベリーベスト法律事務所では、残業代請求を含め、さまざまな労働問題の解決事例があります。労働問題の解決事例については、以下のページをご覧ください。
5、まとめ
残業代の単価は、月給から1時間あたりの基礎賃金を求める必要があります。また、残業時間の計算においては、法定外残業と法定内残業の区別が必要になり、残業時間に応じた割増率の適用も必要です。
このように残業代計算は、とても複雑な計算になっていますので、正確に未払い残業代の計算をするためにもまずは弁護士に相談することをおすすめします。弁護士であれば、未払い残業代請求に必要となる証拠収集や残業代計算をサポートできますので、スムーズに残業代請求の手続きを進めていくことができるでしょう。
会社に対する残業代請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 郡山オフィスまでお気軽にご相談ください。
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