薬剤師が逮捕されると免許取消し? 逮捕された場合の対処法
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高度専門職である薬剤師の方にとって、逮捕されて実名が報道されたり、薬剤師免許が取り消されたりすることへの不安は決して小さくないでしょう。
薬剤師免許は、逮捕されただけで取り消されることはありませんが、起訴されて有罪になると、免許取消しなどの行政処分を受けることがあります。そのため、薬剤師の方が刑事事件を起こした場合は、早期の弁護活動がより重要です。
本コラムでは、薬剤師の方が刑事事件を起こした場合の行政処分や刑事手続、逮捕されそうなときの対処法などについて、ベリーベスト法律事務所 郡山オフィスの弁護士が解説します。
1、薬剤師が逮捕されると免許はどうなる? 処分や失職の可能性は?
薬剤師の方が刑事事件を起こした場合に、薬剤師免許にどのような影響があるのか解説します。
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(1)薬剤師免許取消しなど行政処分の対象になるケース
薬剤師の方が刑事事件を起こすなどして以下の要件に該当する場合、薬剤師免許の取消しなどの行政処分を受ける可能性があります。
① 罰金以上の刑に処せられた場合
刑事事件を起こして起訴され、罰金刑以上の有罪になった場合は、行政処分の対象になります。これは、懲役刑などで刑の執行が猶予された場合も同様です。
なお、比較的軽微な交通違反で納付する反則金は罰金ではないので、処分の対象にはなりません。
② 薬事に関し犯罪または不正の行為があった場合
薬剤師が順守すべき薬剤師法や薬事法などの法規に違反する行為や、薬剤師の立場や知識を悪用した行為があると、行政処分の対象になります。
①と②の要件は、保険薬剤師の登録取消しの要件とも重なる部分があり、保険薬剤師の登録と薬剤師免許の両方について、取消しなどの行政処分を受ける可能性があります。
③ 薬剤師としての品位を損するような行為があった場合
2008年の薬剤師法改正により新たに処分の対象となったものです。具体的な類型としては、脱税や贈収賄のように薬剤師の地位を利用した経済事犯や、調剤過誤事案などが該当すると考えられています。 -
(2)行政処分の種類
薬剤師免許に関する行政処分は、以下の3種類があります。
- 戒告
反省を促すための処分で、合わせて再教育研修の受講を命じられることもあります。 - 3年以内の業務停止
一定期間、薬剤師としての活動を禁止されます。戒告と同様に、再教育研修の受講が命じられることもあります。 - 免許取消し
最も重い処分であり、薬剤師としての活動を一切行えなくなります。5年の待機期間経過後、再免許を受けられる可能性もありますが、ハードルはかなり高いといわれています。
なお、戒告よりも軽い措置として「行政指導(厳重注意)」がありますが、これは行政処分ではないので、特段の不利益はありません。 - 戒告
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(3)行政処分の決定方法
処分の具体的な内容は、厚生労働大臣の裁量にゆだねられていますが、処分の公平性を保つために、医道審議会の答申を踏まえて決定されることになっています。
また、処分の決定に当たっての指針も示されており、以下の要素により検討されます。- 刑事処分の内容:判決内容、刑の重さ
- 職業倫理:薬剤師の職業倫理に反する行為であるか(より重い処分になる可能性)
薬剤師免許の処分は、刑事処分と密接に関係しており、厳しい処分を避けるためには、捜査や裁判への適切な対処が重要です。
なお、逮捕されるか否かという点は、捜査の方法の違いによるものであり、免許の処分には直接影響するものではありません。しかし、身柄を拘束されることにより、業務への支障や信用の失墜などの影響もあるので、逮捕を避けるための早期の弁護活動も重要といえます。
2、薬剤師が逮捕された場合に実名が公表されるの?
薬剤師の方が刑事事件を起こして警察に検挙された場合、実名報道される可能性がどのくらいあるのか解説します。
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(1)マスメディアの公表基準
マスメディアは、犯罪が発生して被疑者(罪を犯したとして捜査対象になっている人)が検挙された場合、国民の知る権利の担い手として報道する責務があります。
一方で、被疑者は刑事裁判手続で有罪の判断がされるまでは無罪の推定が働くので、必要以上にプライバシーを暴くようなことが許されないのはいうまでもありません。
マスメディアは、被疑者の情報をどこまで報道するのか内部で基準を設けているようですが、その内容は公表されていないので、詳細は不明です。
2023年に発生した薬剤師が関与した2件の事件報道では、一方は職業と年齢、大まかな住所が報道され、もう一方はさらに実名も報道されています。 -
(2)実名報道される可能性が高くなる要素
マスメディアの事件報道の傾向から、実名報道される可能性が高いと考えられる要素は以下のとおりです。
① 事件の重大性
殺人や強盗のように凶悪な事件や、自動車の死亡事故のように結果が重大な事件は、社会的な影響も大きいと考えられるので、実名が報道される可能性も高くなります。
なお、前述した2023年に発生した薬剤師が関与した事件では、準強制性交等の容疑という重大な事件だったため、実名まで報道されたと考えられます。
② 職業倫理に反する事件
薬剤師がその立場や知識を利用して薬物に関する刑事事件を起こしたようなケースでは、薬剤師以外の人が事件を起こした場合よりも社会的影響が大きく、実名が報道される可能性も高くなるでしょう。
③ 被疑者が逮捕された事件
警察が被疑者を逮捕した場合、記者発表が行われるケースが多いので、マスメディアに報道される可能性も高くなります。また、誰が逮捕されたのかという事実は、警察による公権力の行使をチェックする観点からも報道の必要性が高いという側面もあります。
3、逮捕された場合の拘束期間は? 逮捕後の流れ
犯罪が行われてから逮捕されるまで、さらに逮捕後はどのように刑事手続が進むのか解説します。
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(1)現行犯人逮捕
犯罪を行っている最中や、行った直後に、逮捕状なしで行われる逮捕です。現行犯人逮捕は、現場に居合わせた目撃者や被害者本人など、警察官ではない私人でも行うことが可能です。
現行犯で逮捕されると、警察署に連行されて取り調べを受け、留置場に収容されることになります。 -
(2)逮捕状による通常逮捕
犯罪発生後、逮捕状を示して行われる逮捕のことです。
警察の捜査により被疑者が特定されて容疑が固まると、逮捕の必要があるか否かが検討されます。逮捕が必要と判断されると、裁判所に逮捕状を請求し、裁判官が逮捕を認めると逮捕状が発付されます。
逮捕前の容疑が固まるまでの捜査は密行で行われるので、ある日突然逮捕されることもあれば、参考人として事情聴取を受け、その後逮捕されることもあります。 -
(3)逮捕後の流れ
逮捕された場合、最大23日間身柄拘束を受けたまま取り調べを受けることになります。
逮捕後の流れは、以下のとおりです。
① 逮捕
逮捕されると、警察署の留置場に最大48時間収容され、警察官による取り調べを受けます。
弁護士以外の家族などと面会したり、電話をかけたりすることはできません。
② 検察官送致
逮捕から48時間以内に事件は検察庁に送致され、検察官による取り調べを受けます。
検察官は、24時間以内に、以下のいずれかの判断を下します。- 釈放:身柄拘束の必要がないと判断された場合
- 勾留請求:引き続き身柄を拘束して捜査する必要があると判断された場合
③ 勾留・勾留延長
裁判所が勾留を認めると、最大10日間身柄拘束が続きます。その後、裁判所が勾留の延長を認めた場合は、さらに最大10日間身柄拘束が続くことになります。
裁判所から面会を制限する決定が出ない限り、家族などと面会することができますが、留置場の警察官が立ち会うので、自由に会話ができないこともあるでしょう。
弁護士は、警察官の立ち会いなどの制限なしに面会ができるため、取り調べに対する具体的なアドバイスやご家族からの言葉を伝言することも可能です。
④ 起訴または不起訴処分
勾留の最終日までに、検察官は以下のいずれかの処分を決定します。- 公判請求:法廷での刑事裁判を求める
- 略式命令請求:書面審理により罰金刑が決まる
- 不起訴処分:起訴猶予、証拠不十分などにより訴追しない
公判請求や略式命令請求を受けた場合、罰金以上の刑に処せられることがほぼ確実となるので、薬剤師免許の行政処分を避けるためには、不起訴処分の獲得を目指すことになります。
4、薬剤師の方が逮捕されそうなときは弁護士へ早期に相談を
薬剤師の方が刑事事件を起こしてしまった場合、薬剤師免許の行政処分などを避けるためにも、早期の弁護活動がより重要となります。
以下、弁護活動の重要性について解説します。
薬剤師の方が逮捕されると、仕事への影響も大きく、信用も失うことになります。刑事事件を起こした場合、いつ逮捕されるかも分からないという状況に置かれますが、逮捕や重い刑事処分を避けるためにできることはあります。
逮捕や勾留を避けるためには、「逃亡のおそれ」や「証拠隠滅のおそれ」がないことについて捜査機関の理解を得るための弁護活動が有効です。
また、被害者がいる事件では、早期に被害弁償や示談交渉を行って、被害届の取り下げや、犯人の処罰を望まないという意思を表明してもらうことができれば理想的といえます。
ただし、加害者本人が被害者と接触すると、証拠隠滅や威迫と見られる可能性があるので、弁護士を通じて行うのが賢明です。
② 身柄拘束の長期化を避ける弁護活動
仮に逮捕されてしまった場合は、その後の勾留や勾留延長により身柄拘束が長期化することを避けるための弁護活動を行います。
具体的には、勾留や勾留延長の判断に対する不服申し立てや、検察官との折衝、被害者との示談交渉、釈放後の監督態勢の整備などがありますが、いずれも逮捕された本人が行うのは難しく、弁護士が法律家の目線で行う必要があります。
③ 不起訴処分を獲得する弁護活動
起訴されて有罪になると、罰金以上の刑に処せられる可能性が高くなります。薬剤師免許の行政処分を免れるためには、できるだけ有利な証拠を集めて、不起訴処分を獲得することが重要です。
なお、犯罪の内容によっては、起訴や刑罰が避けられないこともあります。そのようなケースでも、薬剤師免許に関する重い処分を避けるために、刑事裁判の弁護に最善を尽くします。
5、まとめ
薬剤師の方が刑事事件を起こした場合、刑罰などの刑事処分とともに、薬剤師免許の取消しなどの行政処分も大きな問題となります。
薬剤師免許に関する処分の重さは、罪の性質や重さ、職業倫理との相反性によって異なります。また、被疑者として逮捕されるか、マスメディアで実名報道されるかという点も、薬剤師の方にとっては重要なポイントでしょう。
刑事手続は、早期の弁護活動が受けられるか否かによって大きく明暗が分かれることもあります。捜査機関が逮捕に向けて動き出すと、弁護活動も時間との勝負になるので、できるだけ早く弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
刑事事件の弁護や被害者への対応は、ベリーベスト法律事務所 郡山オフィスにおまかせください。経験豊富な弁護士が、逮捕の回避や刑事処分の軽減等のための弁護活動に全力を尽くします。
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