警備員が自己破産をするときに気を付けるべきこととは
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裁判所が公開する「令和3年 司法統計年報(民事・行政編)」のデータによると、令和3年に福島地方裁判所に破産申し立てがあった件数は752件でした。
幅広い年代の方が活躍されている警備員という職種について、「自己破産ができない」「自己破産するとクビになる」などと聞いたことがある方もいるでしょう。警備員は他人の財産の管理に関わることもあり、その仕事の特殊性などから、自己破産をする際に特別な制約があるのは事実です。
自己破産は借金問題を解決する最終的な手段ともいえるため、借金の問題でお悩みの警備員の方には、特に注意していただきたい点もあります。本コラムでは、警備員の方が自己破産をする際の制約や注意点について、ベリーベスト法律事務所 郡山オフィスの弁護士が解説します。
1、警備員が自己破産するとどうなる?
警備員は「自己破産ができない」といわれることもあります。しかし、正確には「自己破産の手続をしている間は警備員の仕事ができない」ということです。
まずは、自己破産をする際に、警備員の方が受ける制約のことを解説します。
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(1)警備業法による欠格事由がある
民間の警備会社は、警備業法という法律により各種の規制が行われており、公安委員会の認定を受けて営業しています。
その警備業法では、「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者は警備員になることができない」という規定があります(同法14条、3条1号)。これは、破産手続をしている一定の期間だけ警備員として働くことができないという意味で、施設警備や雑踏・交通誘導警備、輸送警備などすべての警備業務に適用されます。
警備員は自己破産が認められない、または自己破産をした経歴があると警備員になれないということではありません。しかし、警備員として働いている方やこれから警備員として就職しようとする方が自己破産をする場合は、警備員として仕事ができない期間があるという点に注意が必要です。 -
(2)警備員が自己破産をすると解雇される?
自己破産はあくまで個人的な問題であるため、一般的には、自己破産をしたことが理由で解雇される可能性は限りなく低いでしょう。
しかし警備業の場合は、自己破産をすると警備員として働くことができない期間があります。そのため、アルバイトの場合はシフトに入れず、正社員の場合は解雇される可能性もあります。
法的に解雇が認められるか否かは、配置転換によって解雇を回避することができるかなど、会社側の事情を考慮して判断されるものであることから、ケース・バイ・ケースといえます。警備員として仕事を続けたい場合は、警備員以外の業務に配置転換してもらうよう交渉してみたり、休職したりする方法を検討しましょう。
なお、会社に自己破産することを隠して警備員の仕事を続けるのは、避けるべきです。
なぜなら、自己破産手続中の警備員を稼働させたことが明るみに出ると、会社の責任問題となることもあり、会社や同僚に多大な損害を与えてしまう可能性があるからです。
また、自己破産をすると、官報という国が発行する機関紙に掲載されることになります。同じ会社の方の目に触れてしまう可能性自体も否定できません。
2、警備員への復職はいつからできる?
警備員の方が自己破産をしたとき、警備の仕事ができない期間は、破産手続開始決定から復権を得る(免責許可決定確定)までの間です。
個人の方が自己破産の申し立てをすると、財産を処分して債権者に配当する「破産手続」が行われ、続いて借金を免除するのが相当か判断するための「免責手続」が行われます。
なお、自己破産をする方に処分するべき財産がなく、かつ財産などの状況を詳しく調査する必要もないケースでは、前半部分の破産手続が行われないこともあります。この処理方法を「同時廃止事件」といいます。
同時廃止事件になると、破産手続開始決定から復権までの期間はおおむね4か月程度となるのが一般的です。
処分するべき財産がある場合や、財産の状況や自己破産に至った経緯について調査が必要だと裁判所が判断した場合は、「管財事件」となります。
管財事件では、破産手続開始決定から復権までの期間はおおむね5か月程度ですが、次章で解説するような問題があるケースでは、さらに長期化することもあります。
3、自己破産をする際の4つの注意点
自己破産は、借金が免除される「免責許可決定」を得るのが目的ですが、免責は無条件で許可されるわけでありません。法律で「免責不許可事由」が定められており、これに該当すると、詳しい調査のために手続が長期化し、最悪の場合は免責が不許可となる可能性もあります。
ここからは、免責が不許可となるような事態を避けるために注意したい点を解説します。
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(1)財産を隠したり処分したりしない
裁判所に自己破産を申し立てる際は、保有している財産や収入、借金の内容を正確に申告することが必要です。
財産を少なく見せるために、財産を隠したり、親戚や友人などに譲渡したりする行為は、免責不許可事由に該当します。 -
(2)借金やクレジットカードの現金化はしない
借金の返済が困難になった状況で、新たに借金をしたり、クレジットカードで購入した商品を現金化したりする行為は、不当に借金を負担する行為として免責不許可事由に該当する可能性があります。
また、自己破産の申し立てをする前の1年間に返済能力などを偽って借金をする行為も免責不許可事由となります。
借金返済のために生活費などが不足するような状況になった場合は、一時的に返済をストップするといった対処をするためにも、できるだけ早く弁護士に相談することがおすすめです。 -
(3)一部の債権者にのみ返済をしない
自己破産をするとしても、自動車ローンや親戚や友人からの借金、保証人をお願いした借金だけは返済したいという気持ちがある方もいるでしょう。
しかし、すべての債権者への返済が困難になった段階で特定の債権者にのみ返済すると、免責不許可事由に該当する可能性があるため、注意が必要です。 -
(4)ギャンブルや浪費が借金の原因である場合
収入と釣り合わないような浪費やパチンコなどのギャンブル、FXや株式、仮想通貨取引などが原因で借金が膨らんだ場合も免責不許可事由に該当します。
自己破産をする際には、このような行為を控えて生活改善を図る意志を裁判所に理解してもらわなければなりません。
4、借金問題で弁護士のサポートを受けるメリット
借金問題の解決を弁護士に依頼するメリットを4つご紹介します。
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(1)自己破産以外の選択肢も検討してもらえる
借金の問題を解決する方法は、自己破産だけではありません。
将来発生する利息などをカットしてもらい、月々の返済額も抑えて3年程度で分割返済する「任意整理」という方法もあります。
また、借金を大幅にカットしてもらい、原則として3年以内に分割返済する「個人再生」という方法は、警備員の仕事を続けながら利用することも可能です。
現在の仕事を続けたい、自宅や自動車などを手放したくない、友人や親戚、保証人に迷惑をかけたくないというご希望がある場合は、どんな解決方法が最適なのかを知るためにも、できるだけ早く弁護士に相談されることをおすすめします。 -
(2)督促がストップし交渉や裁判所の手続を代行してもらえる
弁護士は、自己破産や任意整理、個人再生のいずれの手続でも代理人となることが可能です。債権者との交渉や裁判所の手続では、弁護士が代行し、裁判官や破産管財人との面接には弁護士が同席してサポートします。
また、弁護士に借金問題の解決を依頼すると、貸金業者やクレジット会社は本人に直接催促することができなくなります。
煩わしい手続や督促の電話などに悩まされることなく、生活再建に取り組むことができるのは大きなメリットといえるでしょう。 -
(3)免責不許可事由がある場合でも免責される可能性が高くなる
自己破産をする場合、免責不許可事由があると破産管財人が選任されて詳しい調査が行われる可能性が高くなります。破産管財人には、破産実務に習熟した弁護士が選任されることが多く、不利な事情を隠そうとしても、見破られると考えた方がよいでしょう。
自己破産を弁護士に依頼する際は、免責不許可事由のような不利な事情でもありのままを伝えることで、弁護士も免責が許可されるよう最善を尽くすことができます。また、実際には免責不許可事由があるケースでも、それがよほど深刻なものでなければ、裁判所の裁量により免責が許可されることがほとんどです。
自己破産に至った経緯などは、裁判所や破産管財人との面接でも詳しく質問されるので、弁護士のサポートを受けて対応することをおすすめします。 -
(4)弁護士に自己破産を依頼した場合の流れ
警備員の方が弁護士に自己破産を依頼して、仕事の制限がかかるまでの流れについて解説します。
① 弁護士に相談
弁護士が借金や財産、収入の状況を伺い、今後必要になることのアドバイスをいたします。
相談後、弁護士に自己破産の申し立てを依頼する場合は委任契約を締結し、弁護士が代理人となったことを債権者に通知します。その受任通知が債権者に届くと、督促は一時的にストップします。これ以降は、基本的にすべての返済をせず、弁護士費用や破産に必要な費用を積み立てていただきます。
② 借金の調査・資料の収集
弁護士は債権者から取引履歴などを取り寄せて、適正な利息計算がなされているかなどを調査します。この間は、ご自身で財産や収入に関する資料の収集をすることが必要です。
③ 自己破産の申し立て
必要な資料や費用が準備でき次第、裁判所に自己破産の申し立てを行います。
自己破産の申し立てまでは3か月程度かかるのが一般的ですが、申し立てをすることが決まった段階で、勤務先の警備会社にはその旨を申し出てください。
④ 破産手続開始決定
自己破産の申し立てをすると、約1か月後に裁判所で裁判官との面接(債務者審尋)が行われ、自己破産に至った経緯などについて質問されます。
その後、数週間後に破産手続開始決定がされるのが一般的で、この時点から警備員として仕事をすることができなくなります。
5、まとめ
警備員の方が自己破産の申し立てをする場合、破産手続開始決定から免責許可決定が確定するまでの4か月から5か月間(最短)は、警備員として仕事ができなくなります。
しかし、借金の問題は放置すると状況が悪化していくため、弁護士に相談をして、問題解決に取り組むことがおすすめです。弁護士に依頼すると催促がストップするので、生活再建をしながら費用を積み立てることもできます。
最適な方法で借金問題を解決したい、自己破産をするべきなのかわからないなど、借金に関してのお悩みは、ベリーベスト法律事務所 郡山オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています